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No.06


田島博士の特別栄養講座

バランス
牛や豚などの家畜を肥育する方法の一つに、少量の飼料を絶え間なく与える連続給餌法があります。これは飼育する人間への負担も大きく、機械化のコストを考えると実用化が困難なのですが、1日に1、2回の方法に比べて飼料効率がはるかに優れると言われています。日本人が1日3食の食事習慣を取り入れたのは、武士の労働量が急増した安土・桃山時代だそうで、その方が効率的であることを自然に身につけたのでしょう。主に食事で摂取するものは、タンパク質・炭水化物・脂肪の3大栄養素です。これらは身体をつくる材料と、そのためのエネルギー源です。身体は各栄養素を効率的に吸収できるように、唾液や各酵素の分泌など、無意識に色々な準備をします。余剰分のタンパク質やエネルギーは、最終的に熱として身体から放散されるか、脂肪として身体に蓄積される運命にあります。したがって、1回に大量の食事(いわゆるドカ食い)をするよりも必要量を数回に分けて摂取する方が、エネルギーを無駄なく使えるのです。同じように食事の内容(質)も大切です。燃焼されやすい炭水化物とタンパク質を同時に摂取することで、タンパク質の分解を抑え(タンパク質節約効果)、窒素出納を正の方向に保てます。タンパク質の質が大切であることは前号にも書きました。タンパク質は最終的に腸管内でアミノ酸まで消化され、吸収されます。そして肝臓をはじめとする各臓器に遊離アミノ酸として取り込まれ、そこでタンパク質に合成されます。アミノ酸は体内でタンパク質を合成するための材料になるわけです。もし、その材料の1つでも不足していたらどうなるのでしょうか? タンパク質が合成されないだけでなく、アミノ酸は単なるエネルギー源として使われ、本来の目的を達成できずに消費されてしまいます。ここにタンパク質の質の大切さがあります。すべての材料が同時に供給されることが必要条件です。バランスの悪い食事や大量のタンパク質を食べるよりも、質の良いものを必要量食べることが、最も効率がよい方法なのです。人生と同様、食事でもバランスとタイミングが大切です。健康を維持するためにもこの2点に気をつけましょう。
(田島 清)

「痩せる」と「やつれる」は違う
北海道の名寄短期大学の大田先生は学生を対象に、ダイエットについてのアンケートを行いました。その結果、女子学生の100%が「少し太り気味で、痩せたいと思う。ダイエットの経験もある」と回答しました。しかし、大田先生が見た感じでは、ダイエットが必要な学生は一人もいなかったそうです。痩せるための方法も、××ダイエット、○○ダイエットのように、週刊誌の情報によるものが多く、きちんとした指導がなされていない現状を憂いていました。女性には基本的に痩せたい願望があるようです。理論的には、痩せることはそれほど難しいことではありません。「痩せる・太る」ことは、摂取するカロリーの「収支の差」でしかないからです。食べた分のカロリーを消費できなければ、余りは脂肪として蓄積されます。逆にたくさん食べてもそれ以上のカロリーを消費すれば、収支がマイナスになり、計算上では痩せるわけです。ここで問題なのは、体重の減少だけで「痩せた」と判断していいかどうかです。動物はエネルギーをできるだけ貯蔵しようとします。一方タンパク質は体内に蓄積させておくことができません。つまり、脂肪は合成されやすく、タンパク質は分解されやすいのです。体がエネルギー飢餓になったら、脂肪を燃やしてエネルギーを産出するよりも、タンパク質を分解してエネルギーを得る方が、動物としては楽なのです。脂肪の燃焼は最後の切り札として残してあるといえます。したがって、偏ったダイエット、たとえば果物だけだとか、マンナンを主食にする等の方法で体重が減少しても、それは筋肉が減ったからで、脂肪はそれほど減少していません。脂肪は比重が軽く、同じ体積で比較すると、圧倒的にタンパク質(筋肉)の方が重いので、低タンパク質の食事やタンパク質の質が悪いと筋タンパクが崩壊し、体重の減少がみられます。これは、「痩せた」のではなく「やつれた」と考えるべきです。健全に痩せるためには、全体のカロリーを抑え、窒素出納(Nitrogen balance)を維持するために、良質のタンパク質の摂取が大切です。その上で、運動によって脂肪の燃焼とタンパク質の合成を促す必要があります。「痩せる」理論は簡単ですが、実際には難しいことです。安易なダイエット法には必ず落し穴があります。それで体を壊したら取り返しがつきません。まず本当に痩せる必要があるのか考え、もしそうであれば、生活と食習慣を見直すことから始めるべきでしょう。(田島 清)