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No.07


積水化学女子陸上競技部小出義雄監督に聞く
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小出監督からのメッセージ〜

小出監督といえば元リクルートの監督として誰もがご存じでしょう。有森、鈴木両選手をオリンピックに送り込むなど、多くの選手を育成してきた。
一見奔放な小出イズム。それは長年の指導経験とヒューマニズム あふれる人生哲学に裏付けられている。今春、セキスイの女子チーム監督に就任された。真新しい合宿所を 訪問、お忙しい中、貴重なお話を伺った。



食べない選手は育たないヨ
しっかり食べる選手は強い、やせれば走れるというのは危険な考え方。一時的に速くなるが、生理が止まってしまう。 ガリガリの選手は長続きしない。 よく食べ、よく走ってこそ元気で強い体を作ることできる。長距離というのは血液細胞を破壊しながらエネルギーを生み出すので、その分を補わなければいけない。食事からではどうしても不足する。ランナーに必要な鉄分やカルシウム、ビタミンなどは、吸収しにくいのでサプリメントで補うのがベストだ。

●なるほど、小出門下の選手は痩せすぎていないし、元気そうだ。有森選手は食事についても意識が高く、栄養士と納得いくまで相談するという。元々欧米人に比べて骨が細く、筋肉量の少ない日本人が長距離に耐えうるには頑強な身体作りが必要。痛々しいほど痩せている選手は見る側にも不安を与える。成長期である中学、高校生は特に気をつけて欲しい。速く走れても身体が不健康では意味が無いのだから。

薬や注射は危険
ある医師は、貧血の早期治療で使用する薬や注射は内臓に負担をかけてしまうと言っている。きちんと栄養を摂取してじっくり時間をかけて改善するのが正しい。そしてサポートとして補助食品を使う。しかし、補助食品、漢方薬の中にも危険なものがたくさんある。色々なものを使いたがる選手は結局身体を壊す。正しい考えを持てないようでは世界に通用しない。

●海外のサプリメントは成分が不明瞭なので使わないそうだ。噂に惑わされず、正しいものを見極める目を監督は持っている。 故障と隣り合せの選手を管理する指導者こそ正しい知識を持って欲しい。

負けた選手を怒ったことがない
30年以上の指導経験で、試合で負けた選手を怒ったことがない。選手はいつも必死、負けるのは監督が悪いからだ。未だに陸上競技に関わっているのは、小学校、中学校で先生から陸上競技の面白さを教えてもらったから。感受性の強い年頃に精一杯楽しんだり、喜んだりさせてあげるのが大人の役目。あとは自分で研究して強くなっていく。 高校に進学したら優勝しろよ、将来オリンピック目指せよ、その言葉が子供たちに夢と希望を与える。

●「私が優勝したら監督は髭を剃れる約束だったんです」鈴木選手がマラソンで惜しくも準優勝だったときのコメントを思い出す。信頼無くして師弟関係は成り立たない。選手がいつも明るい表情なのは監督の人間性が反映しているに違いない。

自分のために頑張れ
陸上競技で毎日悩むようなら止めるべきだ。スポーツで一流を目指すのに悩む必要はない。監督のためでも、会社のためでもなく、自分の幸せのために頑張れ、といつも選手に言っている。人のためにやるのでは苦しさに耐えられない。スポーツは夢と希望を抱いて喜んでやるもの。一流選手は苦しいことを楽しみに変える。強制されて勝てるわけがない。だから練習メニューは与えるが、選手自身が納得しなければ意味がない。

●頻繁にかかってくる電話もそこそこに、真摯に話して下さる姿に、豊かな思いやりを感じた。
●ある日、シーエフ事務所から程遠くない所で、セキスイの二選手を見かけた。合宿中のジョグらしい。楽しそうに話しながら、緩い坂を上って行く、何とも言えずほっとした。根性論や精神論が今だにまかり通る日本のスポーツ界。その真っ直中にあって。個人のポテンシャルを最大限に活かすことをいつも考えている監督。遠く点となった選手の姿に明るい未来を感じた。伊藤和志