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No.08


光と陰の狭間
ひたすらに邁進する事は美しい その光と影を考えてみた

もう期待されなくていい
そう思うと、ホッとする。バルセロナオリンピック銀メダリスト森下広一(旭化成)が引退した

宗兄弟や谷口浩美でさえ彼を救えなかった
その苦悩は計り知れないものがある。一言一言に悲愴感が漂い、男子マラソン界不振の原因を見るようだった。紆余曲折の競技生活の中でランナーは孤独感に陥りやすい。前向きであり続けることは想像よりも遥かに難しい。弱い自分を客観視し自己啓発する事が大切なのだ。弱い自分を制することで新しい自分を発見する。それは決して忍耐や根性論ではなく、より強い自分を作るというポジティブな考え方なのだ。ミスをしたとき、落ち込んでしまうか、それとも次へのステップと考えるか、周囲の期待にしても同じだ。喜びと捉えるか、重圧と捉えるか。その判断は天地程も違っている。
試合を見ていると、精神的タフネスが他国の選手と決定的に異なるように感じられる。もっと広い視野に基づいた経験と柔軟な考え方が必要な時はすでに来ている。ただ勝てばいいのではなく、スポーツの素晴らしさを人々に伝えて欲しい。世界の檜舞台においても素晴らしいパフォーマンスを見せてくれる、そんな力を持った日本選手が現れるのはいつの事だろう。

実業団登録規定
活動がしやすい環境を整えるのが規定
早田(鐘紡)が退社。ことの経緯は知らないが、その才能を活かしきれない現状はあまりにも寂しい。有森プロ活動宣言を発端に、場所を変え、形を変えながら波紋は広がっている。フリーエージェントに揺れる野球界同様、ある種の日本人的感情論に流されずに豊かな才能を活かす道はないのだろうか。実業団登録規定には思いのほか記載事項が少なく、解釈によっては選手活動を制限してしまう様にも見える。選手たちの多くはプロ化し所属事業所に勤務している。給料さえ貰っていればどのような活動をしようと構わない。胸のロゴを小さく規制したところで、走る広告塔であることは否めない。コマーシャル出演するのと何ら変わりはない。

反面、選手のプロ意識は全く遅れている。会社が身分を保証してくれるからだろう。合宿や遠征などで費やされる莫大な予算すら頭にない監督や選手も多く、結果が伴わなければリストラの筆頭に挙げられる。完全なプロ化が認められていない以上所属企業の無い選手は報酬を断たれる。移籍には監督の承認が必要で、例外無く円満退社でなければ他チームでの活動は許されない。これは人生をも脅かす大きな問題になる。もっと自由にチームや指導者を選択する機会が与えられても良い筈だ。監督やフロントにも過ちを犯す可能性はあるのだから。

先進諸国では選手がコーチを選ぶのが常識で、教える側にもプロ意識が要求される。プロはプロに学ぶ必要がある。本来、選手活動がしやすい環境を整えるのが規定であって、拘束する為のものではない筈だ。社会は急速に多様化している。この鈍感極まりない陸上界にも現状を打破する為に重い腰をあげる時が来ている。
山根

想像力、判断力、自由な発想
ラグビー・平尾誠二に学ぶ

ラグビー界のスーパースター平尾誠二をご存じだろうか。高校時代から常に頂点で活躍し続けた神戸製鋼の元キャプテン、今年ジャパンの監督に就任した。スポーツ選手に最も大切なのは、創造力、判断力そして自由な発想であると言い切る。この考えは一流プレーヤーとしての経験と常勝チームを指導してきた実績に裏付けられている。外国チームに歯が立たないのは、体格差だけではなく、日本の体育会的発想のためだとも語る。練習の目的も知らされず、そこに疑問も持たない。必要以上の練習量、結果よりもプロセスを重視する。選手選考に至っては情がからむ始末。創造力を駆使しイメージを現実にしていく外国チームとの精神的な格差は、体力差よりも明らかである。これでは勝てない。
そこで「平尾プロジェクト」が生まれた。経験の有無に関わらず、潜在能力のある若者を広く募集し、長いスパンで日本ラグビーを立て直そうという企画である。実にユニークだが、個人の生き方を重視する意味ではあたりまえとも言える。漠然と企業やチームの為に頑張るのではなく、個人のオリジナリティを磨いてプレーに生かして行こうというのだ。
10月4日日本選手権110ハードルに於いて、長野五輪ボブスレー代表候補の井上将憲選手が、練習不足にも関わらず優勝したように、陸上界にもそろそろ創造性豊かな指導者が出現してくれる事を期待している。いつまでも許し難いような罵声と意味不明の根性論だけで選手の強化を図ろうとするのは、時代錯誤と云うべきである。
藤井