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No.14


日本陸上界スター不在の現実

現状では、日本陸上界には憧れの対象となるスター選手は生まれない。
記録や勝負けよりも、もっと大切なものの為に君は走るべきだ。

  

積極的な人だけが夢を叶える 〜世界陸上の勇者〜

マーラ・ラニャン選手
米国・女子一五〇〇m
視覚に障害が現れ始めたのは八歳の時。障害者として認定を受けたが、スポーツをしていればハンディを忘れられる、と一四歳から陸上競技を始める。七種競技から一五〇〇mに転向し、今年のパンアメリカン大会で優勝を飾った。世界陸上では堂々の一〇位、四分〇六秒。日本記録よりも速い。
トラックを感覚で捕らえ、他の選手の気配を感じながら集団の後方に位置し、最後の直線で外側からスパートするのがレース展開である。実際に目を閉じてみると、一歩踏み出すのにも恐怖心が起きる。彼女は言った。「人生は消極的になってはいけない」積極的な人だけが、夢を叶える事が出来ると実証している。(和)



記録や成績の向こうに 〜駅伝シーズンに向けて〜

駅伝シーズンを控え、練習に励んでいる皆さんにエールを送りたい。そして今一度、何の為に走るのか、を考えて欲しい。日本のスポーツ界は着実に世界レベルに近づこうとしている。サッカー、野球の五輪出場決定、ラグビーワールドカップ出場など、国際大会での活躍が世間を賑わせている。チームスポーツにおいては、組織ぐるみのシステム改造の成果が表れたと言える。
陸上では世界選手権があったが、結果は芳しくない。優勝者と日本選手の間には計測し難いレベルの差があった。競技意識、生き方、知識、信条、感謝。競技を通じて社会的に貢献している選手も少なくない。トレーニングを積み、百戦錬磨を経て、競技力だけでなく立派な人格者としての生き方が見えてくる。残念ながら日本選手には感じられない事だ。今の陸上界にはスター選手がいないのは、記録や成績の向こうに、心惹かれる生き方や考え方が見えてこないからではないだろうか。
競技が人生を豊かなものにしていると感じるから、自分もそうなりたい、と思うのだ。クーベルタンは古代オリンピアの祭典をオリンピックとして復活させた。正しい心と強い身体がスポーツによって養われ、スポーツが世界の人々の心を結ぶと信じたからだ。その精神はどんな小さな競技会にも宿っている。チャレンジする者の人格がその度に試されているのだから。



国際舞台での経験不足

サッカーの中田英寿選手を始め、海外で活躍する選手が多数出てきた。日本のシステムでは、特にプロの世界では海外への移籍は非常に困難である。規則を破らない限り、意志を貫く事が出来ない。困難を窮めてアメリカに乗り込んで行った野茂選手が拓いた功績は大きい。ペルージャの中田選手は、イタリアの練習で明らかな違いを感じた。練習でも試合と同じ様に本気で怪我を恐れない。そして日本のレベルを上げるには、海外に選手を送り出す事が最も効果的だと言う。また、逆も言える。Jリーグは今や監督、選手共に外国人を抜きには考えられない。その強い当たりとスピードを体感しながら、心身共にタフになってきた。ラグビーの日本代表にはニュージーランドを中心とした外国人選手が六人も含まれている。そして、日本に対して持つ共通の意見は、試合経験が足りないという事である。
技術は十分にあるのに、試合でプレッシャーがかかるとミスをしてしまう。これを乗り越えるには高いレベルでの経験を積み、身体で憶えていくしかない。陸上界でも、ヨーロッパのグランプリで揉まれてきた選手だけが実力を上げている。しかし、あまりに少数である。もっと国際舞台に近づく努力をしなければならない。それにしても他の競技に比して、国際駅伝等に見られる日本代表の日の丸の、なんと安っぽい事か。(優)



あの勇気を忘れてはいけない 世界陸上セビリア大会100mH

アスリートといえば健康の代名詞の様に思われがちだが、世界陸上セビリア大会では、病気から見事に復活し、メダルを獲得した選手がいた。奇しくも同じ女子一〇〇mHに出場した二人である。ゲイル・ディバースはグレーブス病、ルドミラ・エンクエストは乳癌のため放射線治療の最中であった。それほど苦しい闘いだったのかは想像もつかない。病と共存しながら競技に挑み、強靱な精神力で国際舞台に帰って来た。ゴールラインを駆け抜けた二人が笑顔で抱き合いながらタイム掲示を見つめるシーンは感動的であった。
そして彼女達が期せずして口を揃えて言ったのは「勇気」だった。勇気を持って挑戦する事で困難を乗り越え、勇気を持って臨めば何でも出来るという事を人々に解って欲しい、と。その勇気を真摯に受け止めなければいけない。スランプや故障と向かい合っている時は尚更だ。日常の一つ一つの動作に勇気を持つ事、その積み重ねがいずれ大きな力となると信じたい。(晋)



真の強さは心の強さ

ラグビーワールドカップでジャパンは残念ながら一勝も出来なかった。直前のパシフィックリムや壮行試合ではサモアをはじめカナダ、アルゼンチンなどを次々と破り最強とまで言わしめた。しかし結果が出なかったのは何故だろうか。体格差やジャッジの劣勢はあった。点差ほどの実力差も無いように見受けられた。そこには技術では補えない心の問題が見えて来る。国を背負った誇りとそこに自己を高めていく心の強さ、これが土壇場でのプレー、特にディフェンスで如実に現れる。まさにプライドがプレーを支配している。本番が全てであり、ラグビーには番狂わせが無いと言われる所以である。代表の一人、村田亙選手が来シーズンからフランスのリーグでプレーする。是非とも精神力を学んできて欲しいと思う。見違えるほど上達したスキルとテクニックの上に、この強さが加われば十分世界に通用すると確信している。(慎)