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No.15


玉川大学陸上競技部長距離女子駅伝チーム

一昨年春、たった四名のメンバーでチームはスタートした。昨春、七名の新人を迎え、強化一年目にして全国大学女子駅伝に出場した。この快挙を支えたコーチの山下誠氏、チーム強化の立役者である川崎登志喜部長にお話を伺った。

 

学生の本分
川崎氏は、どんな理想でチームを創設されたのだろうか・・・「まずは筑波大学の同期である山下さんに相談を持ちかけました。リクルートや順大でコーチの経験を積んでいましたから。学園の持つイメージを踏まえて、女子チームを作る事に決めました。学生の本分を守りながら強い選手を育てたい、と考えも一致したんです」曾て郷里の鹿児島で中学校教員として陸上部を指導していた。しかも県下一の実力校。中学生にどこまでやらせれば良いのか、戸惑いと共に悩む事も多かった。

「中学生は伸び盛り、言わなくても練習するんですよ。朝練もやりたい、あれもこれも。だから逆に止めろって言ってました。それでもスポーツ少年団みたいな所で走っていた様です」輝かしい実績を残された。記録は伸びる時に一気に伸ばしてやるのが良いのか。その先に成長する為の後押しをするべきなのか。親や地元の期待もある。

そこで指導を根本的に勉強しなくてはと大学院に戻った。退職しての進学に周囲の反対も強かったという。「大学生の指導はある意味では楽かも知れない。ここまで続けてきたんだから頑張ればもっと良い思いが出来るよと言えるから・・」

価値観を持つ
一方、山下コーチは自身の大学時代が常にイメージとしてあったという。「母校の筑波大では主体はあくまで学生だったんです。学生が練習を考えて監督やコーチがチェックをするというシステムでした。最終的な決定は監督やコーチですが、毎日の練習、トレーニングは自分達でやる。それが本来の在り方だという理念があった。同期の渋谷君(現雪印監督)や先輩方もしっかりした価値観を持っていて、私は大切な事を周りに教わりました。自主自立、仕事じゃないからこそ真剣に。それが学生らしさです。リクルートでも、強くなる選手は価値観をきちんと持っているんですよ。やり方は色々ですが、競技に真剣に取り組んでいる」

自己評価
トレーニングコースなど、環境を作ることから始めました」当時は三つのコースがあっただけで距離も不明、練習の内容もペースも気まぐれに近い状態だった。まずはグランドに線を引き、距離計測、ペースの設定など、環境を整えた。「練習を自分達で評価してもらいたかったんです。前と比較してどうだったか、考える基点と目標をあたえました。年間の最重要試合は何か。関東インカレ、全日本インカレ出場を認識して欲しかった。

ところが反応は『とても出れない』の一言でした。そこで標準記録を突破する為に結果が出る試合を選んで出場する事をしました。それまでは記録会が試合になってしまう選手もいたんです。試合があるから出るのではなく、それまでのプロセスを考える様に意識を変えさせました」環境整備と目標の設定、これが出来たら、あとは学生を信頼する。この姿勢は絶対に崩さない。

「面白くなる手だてをどんどん提供してあげたいんです」・・・やがて選手達の興味も次第に深まっていった。 お洒落も大切 「今、何が大切なのかをきちんと分かって欲しい。学業を疎かにしない。単位を落としても陸上の所為にはしない。アルバイトしている選手もいます。それも無理のない範囲です。体調を崩して困るのは自分だから。いつもトレーニングウエアでいるのもどうかな、と言った事もあります。ウエアに着替える事でけじめをつけて欲しいし、TPOに合わせてスーツを着たり、お洒落をするのも大切です。そういう分別もこれからは必要だと思います」

鈴木も有森も
リクルート時代、選手が世界レベルに成長していく過程を見守るのが本当に楽しかったという。マイクを向けられてもつまらない事しか言えなかった選手が、苦労を経て、一人前に成長していく。鈴木も有森もそうだった。学生として、人として立派な選手に育って欲しいと願う。「限界に挑戦するのは当然だと思うんです。学生だから負けていい訳じゃない。真剣にスポーツに取り組み、いずれ世界のフィールドで戦える様になって欲しい。

授業や試験なども含め、学園生活で視野を広げ、競技生活が豊かになれば、記録はついて来ます。大学生が強くなるから意味があるんです」コーチである前に教育者としての考え方が常に先行している。広告塔と化している大学スポーツの在り方に疑問を抱く事も多い。今後このような指導者が増えて欲しいと切に思う。

取材を終えて
豊かな緑の森に囲まれた広いキャンパスは本を抱えて歩く姿も、ジョギングする姿も総てが絵の様でした。新たなスポーツ文化が芽生え始めています。選手の皆さんの学生らしい伸びやかで明るい表情が印象的でした。