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No.16


日本食のすすめ(12)
自然を食する

戦時中、日本兵の食事プログラムを任された学者は、栄養バランス、出身地別の嗜好、レストラン料理風などを考え、さまざまな工夫を凝らしました。ところが、最も喜ばれたのは「田舎の麦味噌をつけた新鮮なキュウリ」でした。素材が良ければ文句なく美味しい、ごくシンプルなものを日本人は好みます。おにぎり同様、直接手で口に運ぶ感覚も、自然を食するという感覚です。日本料理の独創性は味よりもむしろ、視覚的な表現に発揮されています。柏餅、桜餅などは季節の葉の色や香りを餅に移します。料理に合わせて器にも趣向を凝らします。日本人は自然との一体化を求める精神が根付いています。
一方、自然を征服しながら築いてきた西洋の料理はソースが素材を支配しています。日本の食生活も西洋化が進み、文化や身体の要求とは関係なく「頭で食べる食品」が横行しています。間違ったダイエット法、低カロリー、ブランド指向といったものから、粗食・素食ブームまですべて流行に過ぎません。食材の栄養価の低下や、化学調味料の蔓延は、私達の食生活を知らないうちに侵しています。純粋な身体と心で見つめ直せば、いにしえから受け継がれた日本人の精神と食文化に自ずと辿り着くのではないでしょうか。大石