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No.16


田島博士の特別栄養講座

人間の適応能力

世界には低栄養状態に適応する体質を持つ民族がいます。パプアニューギニア高地人は二〜三千メートルの山地に住み、イモ類を主食にしています。高炭水化物、低タンパク質の食事は栄養的に偏っていますが、日常の活動に支障はなく、筋肉も通常に発達しています。不足している栄養素もありますが、その欠乏症も見られません。理化学研究所が彼らの腸内を調べたところ、動物の腸内と同様、窒素を固定する細菌を数多く検出しました。本来ならば体外に排出されるべきアンモニアの窒素を利用してアミノ酸・タンパク質を合成していたのです。彼等は日常の食事環境への適応の一つとして、この様な特殊な能力を獲得したものと考えられます。肉食・菜食でも腸内フローラは変わってきます。人間も他の動物と同様、しぶとい適応能力を持っているのです。

遺伝子と情報化の波

人間が持っている全塩基配列が決定されたというニュースが報じられました。アメリカの遺伝子ビジネスや塩基配列を解読する機械の著しい向上がそれを可能にしたと言えます。塩基配列はタンパク質を合成する際の情報が書かれた暗号です。しかし、それで人のすべてが分かる訳ではありません。配列は役割を持った遺伝子とそうでない部分の二つに分かれますが、役割が分からない物の方が多いのが実状です。遺伝子にどの程度個人差があるのかを調べ、創薬に役立てたり、タンパク質の機能や様々な塩基配列の影響を調べる研究が盛んに行われています。その成果の中には、将来特定の病気になるか否かなど、知る事が必ずしも良いとは言えない情報も含まれるでしょう。それに惑わされない為にも、生命についての倫理観や人生観など、個人の確固たる尺度が必要になると思います。